墓石に刻む文字に決まりはある?書体や彫り方、位置と意味を紹介
お墓の形が多様化することにより、お墓に刻む文字もまた家族が自由に決められるようになりました。
伝統的なお墓であれば彫刻すべき言葉や場所はある程度決まっていますが、モダンな墓石は自由度が高いからこそ、何をどう彫刻すればよいのかと迷われる方が少なくありません。
「お墓にはどのような文字を彫刻するの?」
「文字の位置に決まりはあるの?」
「どのような書体を使えるのか知りたい」
このようなことでお悩みの方に向けて、今回は墓石に刻む文字についてわかりやすく解説いたします。ぜひ参考にしてください。
墓石に刻む文字
墓石には、さまざまな文字が彫刻されます。どのような種類の文字を彫るのか、ひとつずつ解説していきます。
家名
代表的なのが、家名です。軸石の表面に彫刻されるまさにお墓のシンボルです。
「〇〇家乃墓」という文字が一般的ですが、他にも「〇〇家」「〇〇家先祖累代乃墓」と刻むこともあります。これらは地域性などによるもので大きな違いはありません。
軸石表面には家名以外にも「南無阿弥陀仏」「南無妙法蓮華経」など、菩提寺の宗派が大切にしている言葉を彫刻することもあります。
ご先祖様について
お墓のなかに誰が眠っているかわかるように、埋葬されているご先祖様の戒名・俗名・命日・年齢を彫刻します。
彫刻の場所は、軸石の側面か、霊標(ご先祖様の名前を刻むための板石)のいずれかです。
霊標は「墓誌」「戒名板」「法名碑」とも呼ばれます。
- 戒名
お寺から授かった戒名を彫刻します。男性なら「〇〇〇〇居士(信士)」、女性なら「〇〇〇〇大姉(信女)」などです。浄土真宗では戒名ではなく「法名」となり、「釋〇〇」という文字を彫刻します。
- 俗名
ご先祖様が生前に名乗っていた名前のことです。
- 命日
ご先祖様が亡くなった日です。日付の後ろに「亡」「没」「寂」などの一字を入れることもあります。
- 年齢
お墓の彫刻の際は、満年齢ではなく数え年にするのが一般的です。生まれた年を1歳とし、お正月が来るごとに年を重ねる数え方なので、満年齢より1歳ないし2歳多い年齢で刻まれます。
建立年月と建立者名
お墓を建てた年月と建立者名は、軸石の後面に刻まれることが多いです。建立者は単独でも構いませんし、連名にして刻むこともできます。
またいまだ健在な方の名前は、長寿や健康を祈る意味で朱色にするしきたりがあり、その方がお亡くなりになったら朱色を抜きます。
家紋
家紋は、その家で受け継がれる紋様のことです。水をお供えする「水鉢」の他、墓域を囲む「玉垣」や、墓域の入り口に置かれる「門柱」などに刻むこともあります。
新しくお墓を建てるのに、わが家の家紋がわからないケースが少なくありません。その場合は、親戚に聞く、本家のお墓に刻まれている家紋を見るなどして確認しましょう。
宗派が定める言葉(六字名号や御題目など)
浄土真宗の六字名号「南無阿弥陀仏」や、日蓮宗の御題目「南無妙法蓮華経」など、所属する菩提寺の宗派が定める言葉を彫刻するケースも多くあります。
格言
モダンデザインの墓石では伝統的な様式よりも、個人の嗜好がより重視されます。家の名前や宗派の言葉ではなく、個人の思想や家族のつながりを感じさせる一字や格言などが用いられます。
「心」「偲」「絆」「和」「永遠」「安穏」「感謝」「ありがとう」「いつまでも」など、家族としっかり話し合って、我が家だからこその言葉を考えましょう。
宗派別の特徴
墓石の文字は宗派別にどのような特徴があるのでしょうか。現代の日本で代表的な7つの宗派に分けて、その特徴と意味をご紹介いたします。
天台宗
天台宗のお墓の場合、これといった決まりはありません。天台宗は法華経・念仏・禅・密教など、さまざまな修行を実践する宗派で、特定のご本尊(礼拝の対象となる仏様)も決まっていないからです。
そのため、軸石には「〇〇家乃墓」と彫刻することが多いようです。この際、頭に大日如来の梵字である「ア」を刻むこともあります。
その他ごく少数ですが、法華経を大切にすることから「南無妙法蓮華経」、故人様やご先祖様の極楽往生を願うために「南無阿弥陀仏」と彫刻しているケースも見られます。
真言宗
真言宗は、ご本尊である大日如来を大切にする宗派です。
そのため家名のうえに、大日如来を表す梵字の「ア」を刻むことが多いようです。
また、真言宗の開祖である弘法大師空海に帰依する言葉「南無大師遍照金剛」を彫刻することもあります(この言葉を「御宝号」と呼びます)。
浄土宗
浄土宗は、阿弥陀如来の極楽浄土への往生を願う宗派です。
軸石には「南無阿弥陀仏」や「俱会一処」(くえいっしょ:極楽浄土でまた会わせていただくという意味)などと刻みます。また「〇〇家乃墓」のように彫刻する場合も、そのうえに阿弥陀如来を表す梵字である「キリーク」を刻むのが特徴です。
浄土宗の場合、戒名のなかに「誉」という文字をあてがわれることも少なくありません。
浄土真宗
浄土真宗は浄土宗と同様、阿弥陀如来の極楽浄土への往生を願う宗派ですが、その教えをより純化したことで、しきたりや所作が他の宗派と大きく異なる点が特徴です。
浄土真宗では、阿弥陀如来を信じて念仏を称えるものは誰もが極楽浄土に往生できると考えられています。お墓は故人様やご先祖様の供養を願う場所ではなく、阿弥陀仏の慈悲に気付かせていただく場所と考えられているのです。
そのことから、軸石には「南無阿弥陀仏」と彫刻することが推奨されています。
また浄土真宗では戒名ではなく法名を授かるため、「釋〇〇」(女性の場合は「釋尼〇〇」の場合もあり)という文字の構成になります。
臨済宗・曹洞宗
禅宗に分類される臨済宗や曹洞宗では、お釈迦様が悟りを開いた姿に自身をかさねて自らも悟りを目指します。坐禅を重視するのは、お釈迦様が瞑想をしているときに悟りを開かれたからです。
禅宗寺院の本尊は釈迦如来で、お墓の軸石にも「〇〇家乃墓」だけでなく、お釈迦様に帰依する意味の「南無釈迦牟尼仏」と彫刻することもあります。
また、家名のうえに、悟りや真理を円形で表した「円相」を刻むこともあります。
日蓮宗
日蓮宗は、法華経を大切にする宗派です。軸石には、「南無妙法蓮華経」の御題目を彫刻することが多いようです。さらに書体は「髭題目」と呼ばれ、「南無妙法蓮華経」の「法」以外の6字の端を長いひげのように伸ばし、お題目の光明が全てのものを包み込むことを表しています。
また、御題目ではなく家名にする場合、頭に「妙法」の2字を刻みます。
洋風墓石の彫刻
モダンな洋風の墓石は、デザインに決まりがありません。そのため、まずは墓石のデザインを決めて、そこからそのデザインにあった文字や図柄を考えます。文字以外にもさまざまなモチーフを彫刻できます。
刻む言葉は自由に選べる
洋風墓石に刻む言葉は自由ですが、その多くは墓前で手を合わせたときに心が落ち着く言葉、故人様や家族とのつながりを感じられる言葉、感謝を込めた言葉などが選ばれています。
漢字一字の例
「光」「心」「偲」「絆」「空」「祈」「夢」「縁」「和」「想」「愛」など
漢字二字の例
「永遠」「安穏」「感謝」「希望」「悠久」「永眠」など
その他
「ありがとう」「安らぎ」「いつまでも、やすらかに」「ずっと一緒に」など
花柄などのモチーフも彫刻可能
言葉と合わせて花柄などのモチーフを彫刻することで、彫刻された言葉がさらに際立ちます。
モチーフを彫刻するときには、文字の大きさや配置位置など、全体のバランスを考えて、何をどこに彫刻するかを決めていきます。
また、色を入れるか入れないかによって見た目の印象も大きく変わるので、石材店と相談しながら進めていきましょう。
彫刻文字の書体の種類
文字の書体が変わるだけで、お墓の雰囲気も大きく変化します。書体に決まりはないので、気に入ったものを選びましょう。
楷書体
文字を崩さずに書く、形の整った書体です。一般的に多く用いられています。はね・とめ・はらい・角などが明瞭で、温かみや柔らかさが感じられます。
行書体
楷書体をつなげたり崩したような文字で、楷書体よりもさらにやわらかく、和風の雰囲気を感じられます。
草書体
行書体をさらに崩したような文字で、もともと「草稿」のために早く書くことを目的とした書体です。そのため、字画の省略もみられ、書く人によって崩れ具合にも差があります。その分個性的で、躍動感のある書体です。
ゴシック体
視認性が高く、はっきりと見やすいのが特徴です。墓石ではあまり用いられませんが、パソコンなどでは基本的な書体として用いられています。モダンな墓石の場合は雰囲気に合うこともあるでしょう。
彫り方の種類
文字彫刻にもさまざまな技法があります。少し専門的な事柄にはなりますが、文字彫刻の奥深い世界をご紹介いたします。
彫り込み
墓石彫刻のスタンダードな方法です。文字を書くときと同じように、 筆を置く地点と止める地点をより深く彫り込むことでメリハリがつき、文字に立体感が生まれます。
平彫り
彫り込みの技法では、深く彫る部分と浅く彫る部分の高低差を付けますが、平彫りでは高低差をつけずに均等に彫刻します。立体感や迫力こそないものの、スッキリと落ち着いた印象を表現できます。
線彫り
文字のアウトラインをなぞるように彫る技法で、「スジ彫り」とも呼ばれます。繊細な表現が可能となるため、文字彫刻よりも、花柄などのモチーフを彫刻する際に用いられます。
ヤゲン彫り
V字の彫刻刀で彫ったような彫刻技法です。文字の周縁は浅く、中央に行くほど深く彫り込まれるので、陰影ができ、深い立体感が生まれます。梵字や家名など、大きな文字を彫刻するときに用いられます。
なお、ヤゲンとは、薬を轢いて粉末状にする器具の「薬研」が語源で、ヤゲン彫りには高度な技術が必要です。
浮かし彫り
文字部分ではなく、文字の周囲を削り落とすことで文字を浮き立たせる技法のことです。 彫刻部分に色を入れなくても文字がしっかりと際立つのが特徴です。
彫刻文字の位置と意味
お墓にはさまざまな文字が刻まれます。墓石の位置ごとに、どの文字が刻まれるかを解説いたします。
軸石表面
家名(〇〇家乃墓など)や宗派が定める言葉(南無阿弥陀仏など)、モダンな墓石の場合は自分たちが選んだ言葉やモチーフを彫刻します。軸石の表面はまさにそのお墓の象徴となる場所です。家のつながりを大事にする人は家名を、宗教心のある方は宗派の言葉を、自分らしさを大切にする人は、自分が好む一語を選びましょう。
古いお墓の場合、表面に戒名を刻む例も見られます。これはお墓が一家に一基ではなく、ひとりに一基、あるいは一組の夫婦に一基建てられていた頃の名残です。
軸石側面
ご先祖様の戒名や俗名などを彫刻します。最近では軸石ではなく霊標に刻むことが多いですが、かつては軸石側面に彫刻するのが一般的でした。軸石に彫刻を施す場合は、僧侶によるお性根抜きが必要です。新たに埋葬するにあたって追加彫刻をする場合は、お性根抜きの法要を忘れないようにしましょう。
軸石裏面
建立者や建立年月を彫刻します。建立者名は祭祀承継者一人でも、お金を出し合った人の名前を連名にしても構いません。まだ健在な方の名前は朱色にするしきたりがあります。
一部の霊園などでは「墓地名義人を彫刻しなければならない」と決まりを設けているところも見られます。
霊標
ご先祖様の戒名などを刻むための板石です。ご先祖様の戒名、俗名、命日、年齢を刻みます。
墓石に文字を刻む際の費用
墓石に文字を刻む際はどれくらいの費用がかかるのでしょうか。
新規建立のお墓の場合
新しく建てる墓石の費用のなかには彫刻代金も含まれ、費用の相場は5万円〜10万円です。
軸石の表面に家名など、裏面に建立者や建立年月、水鉢に家紋、霊標にご先祖様の戒名などを刻みます。彫刻箇所こそ多いものの、工場で一気に彫ることができます。
既存の墓石に追加彫刻の場合
すでに墓地に建っているお墓に追加彫刻する場合、彫刻機材を持ち込んで現場施工にするか、石を工場に持ち帰って施工するかのいずれかで費用が異なります。最近では前者のほうが多く、5万円前後でしょう。後者の場合は解体、運搬、据付の費用がかかるため、割高になります。
墓石に文字を刻む際の注意点
一度墓石に文字を刻んでしまったらやり直しはできません。彫刻の際は、次の点に気を付けましょう。
誤字脱字を入念に確認する
誤字脱字がないよう、きちんと位牌と照らし合わせてチェックしておきましょう。
石材店は、彫刻工事に入る前に原寸大の原稿を作り、施主に確認を必ず取ります。ここで誤字脱字に気付かなかったら間違えた文字のまま彫刻をしてしまうことになります。十分に気を付けましょう。
代表的な文字に、次のようなものがあります。
- 「富」と「冨」
- 「高」と「髙」
- 「郎」と「朗」
- 「崎」と「﨑」と「㟢」と「嵜」
- 「渡辺」と「渡邊」と「渡邉」
軸石への彫刻の場合、お性根抜きをしてもらう
軸石は仏様やご先祖様の魂が込められる場所である、彫刻工事の前にはお寺にお性根抜きをしてもらいます。
石材店側としては、お性根抜きの済んでいない墓石への彫刻を基本的に受け付けません。
また霊標へのお性根抜きは不要とされていますが、台石や水鉢など、自身では判断がつかないものに関しては石材店やお寺に相談しましょう。
まとめ
石は長い年月同じ場所に居続けられるものです。そこに刻まれた文字も、時代を超えて後世の人たちの目に触れることになります。だからこそ、伝統的な様式に則ることに意味があるのかもしれません。またモダンな墓石をご検討の方は、ご先祖様や故人様とのつながりを感じられ、感謝の想いがあふれ、思わずお墓参りしたくなるような文字を彫刻したいものですね。
墓地や霊園の購入などを検討されている方は、お気軽に石乃家の総合案内や資料請求にてお問合せください。