満年齢とは?数え年との違い・数え方・計算方法も解説
お墓に戒名や命日と合わせて年齢を彫刻するとき、多くの場合「満年齢」ではなく「数え年」を用います。また、年齢の上には「享年(きょうねん)」や「行年(ぎょうねん)」という文字が刻まれますが、これらの意味をご存じでしょうか?
お墓に埋葬された故人にまつわる情報を墓石に刻むのは、子孫の方々が、そこに刻まれた戒名や命日などを通じて、自分自身のルーツであるご先祖様がどのような人だったかを知るためのものです。いわば、お墓に刻まれた文字を介すことによって、祖先と子孫が時代を越えてつながりあうことができるのです。
だからこそ、墓石に彫刻された文字について、その意味をきちんと把握しておきたいものです。この記事では、満年齢と数え年、享年と行年など、お墓の彫刻文字についてわかりやすく解説いたします。
満年齢と数え年
まずは、満年齢と数え年の違いについて、詳しく解説いたします。
満年齢とは
満年齢とは、生まれたその日から1年間を「0歳」と数え、1年後の誕生日を迎えるごとに「1歳」年を取るという年齢の数え方のことです。現代の日本で一般的に用いられている年齢の数え方をします。
もともと日本をはじめとする東アジア諸国では数え年が用いられていましたが、欧米化を促進する明治政府は、明治35年に「年齢計算二関スル法律」を公布し、満年齢への転換を図りました。しかし、庶民の慣習では引き続き数え年が用いられていました。これをよりきちんとした形に整えて国全体に行き渡らせるため、1950年に「年齢のとなえ方に関する法律」が施行され、以降、満年齢の数え方が一般化していき、現在に至ります。
数え年とは
数え年は、生まれた日を1歳として、お正月を迎えるたびに年をひとつ重ねる数え方です。日本をはじめとする東アジアの伝統的な年齢の数え方で、英語では「East Asian age reckoning」と呼ばれています。
たとえば、いま私たちが当たり前のように採用している満年齢の場合、2022年12月31日に生まれた人は、誕生から1年間は「0歳」、翌年の2023年12月31日に「1歳」となります。ところが、数え年では、正月を迎えるごとに年をひとつ重ねるので、2023年の元旦である翌日には「2歳」、そして誕生日の翌日の2024年の元旦にはもう3歳になってしまうのです。
なぜ東アジアで数え年が用いられているのか正確な理由は不明ですが、少なくとも東アジアの政治、経済、文化の中心地であった中国で用いられていた年齢の数え方を、周辺諸国も採用していたものだと思われます。
数え年から満年齢に変わった理由
数え年から満年齢に変更したのには、次のような理由が挙げられます(法案の提案者である山本有三参議院議員の趣旨説明から)。
「若返り」を促す
貧困にあえぐ戦後の日本は暗い雰囲気に覆われていましたが、いわゆる「若返り法」を用いることで、国民の気持ちの向上をさせようとしました。数え年から満年齢に変えることで、年齢が1歳ないし2歳若くなります。
正確な出生届の促進
当時は、出生届を正確に出さないことが当たり前のようにおこなわれていたそうです。嫁入りするときに、年齢が高い方が不利になるため、出生日を遅らせて届けを出したのです。12月に生まれた人はひと月も経たないうちに2歳になってしまいます(数え年では、生まれたその日から1歳となり、正月を迎えるたびにひとつ年を重ねるため)。こうした慣行を合理的なものに整えていくために、この法律が制定されました。
欧米基準に合わせる
日本を含む東アジアでは数え年が用いられていましたが、欧米では満年齢の数え方が当たり前でした。国際的なやりとりをスムーズにするために、日本も満年齢に移行したようです。
配給の不平等の解消
戦後の日本社会では食糧不足が深刻で、配給制度がとられていました。配給量は年齢に合わせたカロリー計算によって決められましたが、数え年では、その人の実態と年齢が合致していないことが多く、さまざまな不都合が生じたそうです。満年齢を採用することで、出生日から現在までの年齢や日数が正確に把握できるようになります。
仏事で数え年が多い理由
仏事をはじめとする伝統行事では、いまでも数え年が多く用いられています。戒名はお寺が故人に授けるものです。葬儀で用いる白木位牌には戒名に加えて年齢も記されますが、ここでも数え年が用いられるため、その後の本位牌の作成や墓石彫刻の際にも、それにあわせて数え年で年齢を示します。また、七五三や厄払いなども数え年で計算して、その年に該当する人が神社やお寺にお参りします。
なぜ仏事などの伝統行事では厄年が用いられているのでしょうか。考えられる理由は次の3つです。
お母さんのおなかのなかの期間も1歳と考える
日本ではよく「十月十日」と表現しますが、これは胎児がお母さんのおなかのなかにいる期間のことです。日本の仏教では、人が命を宿す瞬間は、お母さんの胎内から産み出されたときではなく、おなかのなかで命を宿した瞬間として考えています。「0」は何も存在しないことを意味しますが、目には見えない、おなかのなかの小さな命を含めて、その人の年齢を数えるのです。
伝統的な数え方をしないと檀家の管理に不都合が生じる
これは、お寺側の事情だと思われますが、お寺は歴代の檀家の記録を全て残しています。そのためある時期から満年齢に変えることで、管理に狂いが生じてしまいます。特に前の章で読んでいただいたとおり、日本における数え年から満年齢への移行は、明治期から戦後にかけて段階的におこなわれてきました。明治以前から長く続くお寺では、時代やそれぞれの社会状況の変化に捉われず、年の数え方を統一するために、数え年が引き続き用いられているものだと思われます。
暦は天体の規則的な運行によって割り出されている
七五三や厄払いなどは暦をもとにしておこなわれている民間祭事です。暦は古くから天体の規則的な運行をもとに割り出されています。社会の変化によって年齢の数え方が変わったからといって、祭事の時期までずらすわけにはいきません。伝統的な行事は、古くから続いていることに価値があるため、いまでも数え年を採用しているのです。
享年と行年
お墓に年齢を刻むとき、故人様がこの世で生きた年数(年齢)は、享年や行年で表されます。両者には意味や用法の違いこそあるものの、実際のお墓の現場ではこれらが混同しており、戒名を授ける僧侶もその違いをわからないまま使用しているのが実情です。
享年と行年の違いは、次のとおりです。
享年とは
享年(きょうねん)とは、人が「天から享(う)けた年数」という意味です。天から生命を享けた瞬間を母体のなかで命を宿した瞬間と考えるため、数え年に付けて用いられます。享年の場合、本来は年齢のあとに「歳」をつけません。80歳で亡くなった方の場合「享年八十」と書くのが基本です。
行年とは
「行年(ぎょうねん)」とは、母体から産み出されてからの、「この世界で修行した年数」を意味します。そのため、満年齢で数えるのが一般的です。行年の場合は、年齢のうしろに「歳」をつけるのが習わしです。80歳で亡くなった方の場合、「行年八十歳」と書きます。
履歴書に記載する年齢は?
履歴書に記載するときには満年齢を書きます。
前の章でも説明したとおり、いまの日本の法律では満年齢を用いることが定められています。そのため、就職や進学、公的機関への手続き、商品やサービスの購入など、さまざまな社会活動のなかで年齢を示す際には、満年齢を記載します。
墓石に記載する年齢は?
墓石に記載する年齢は、お寺が用意した位牌に合わせるのが基本で、多くの場合は数え年が採用されています。
葬儀のときに、故人に対して戒名が授けられます(浄土真宗の場合は法名)。その際、位牌には戒名のほかに、生前の名前、命日、そして年齢が記載されます。ほとんどのお寺では、ここに数え年を記載するので、それをそのまま墓石にも彫刻します。
ただし前の章で、「享年は数え年、行年は満年齢」と解説しましたが、実際の現場ではこのあたりは統一されていないのが実情です。行年のあとに数え年を記載するケースも多々あれば、そもそも数え年ではなく満年齢を採用しているお寺もあります。すでに彫刻されているご先祖様にあわせて、「享年/行年」「満年齢/数え年」を決めることもしばしばです。墓石に一度でも彫刻してしまうと修正はできません。もしも彫刻文字で気になることがある場合は、必ず事前にお寺に確認しましょう。
満年齢の算出方法
満年齢の算出方法には、次の3つが挙げられます。
西暦から計算する
最も簡単な方法は、西暦を使って引き算することです。現在の西暦から、自分が生まれた年の西暦を引き算することで、満年齢を導き出せます。たとえば、この記事を執筆しているのは2023年ですが、1970年生まれの方の場合、「2023−1970=53」という計算となります。すでに誕生日を迎えているのであれば「満53歳」、まだ誕生日を迎えていないのであれば「満52歳」となります。
表計算ソフトを使う
Excelなどの表計算ソフトのなかにある計算式を用いることで満年齢を導き出せます。表計算ソフトには、さまざまな計算や処理をおこなう「関数」の機能があり、満年齢の計算には「DATEDIF(デイトディフ)関数」を用いて、次の手順でおこないます。
- 任意のセル(たとえば「A1」)に誕生日を入力します
- 任意のセル(たとえば「B1」)のセルに現在の日付を入れます
- 任意のセル(たとえば「C1」)に「=DATEDIF(A1,B1,”Y”)」と入力することで満年齢が算出されます
気を付けなければならないのは次の2点です。
※日付は小文字の数字とスラッシュ「/」を用います。2023年1月23日であれば、「2023/1/23」と入力します。
※DATEDIF関数は非公式な関数であるため、関数を自分で打ち込まなければなりません。
年齢早見表を確認する
最近ではインターネット上に年齢早見表が公開されています。これらを参考にして満年齢を確認しましょう。
まとめ
葬儀や位牌、お墓などの仏事で用いられるのは基本的には数え年です。それは、仏教寺院が古くからの伝統に則っているから、おなかのなかで命を宿したときからその人の人生が始まると考えるから、などの理由が挙げられます。一般社会においては満年齢の採用が当たり前となりましたが、仏事においては「享年/行年」「満年齢/数え年」などが混在して使われているのが実情です。わからないことがあるときにはお寺に確認しながら、墓石の彫刻を進めていきましょう。
墓地や霊園の購入などを検討されている方は、お気軽に石乃家の総合案内や資料請求にてお問合せください。